御坊商工に細田先生という太った先生がおりまして……。知っていますよね、あの太い細田先生が動物の話を聞きたいと言うて、大塔の山の中で太一ちゃんと一緒のテントに入って話を聞いたんです。
ひとつは、クマタカの巣のことです。太一っちゃんはしょっちゅう見てるらしいんですが、クマタカのことを、自分で飼(こ)うたんかと思うほどよう知っとるんです。でも、クマタカというのは昔からそうめったに見られる動物じゃないし、おまけにあの巣っていうのはものすごい高い木のてっぺんにあるんで、見えるはずないのに何故知っとんのかなと思うて詳しく聞いてみたらね、「わしは見えるんや」と言うんです。
どうやって見えるかというたら、「崖の上に小屋を建ててあんね。崖の下から大きな木が生えていたら、目の前にタカが巣つくる」と言うんです。 「見たかったら、そういうところに小屋建てて見てみい。なんせ、卵から孵ったクマタカの子どもちゅうのは、白いダルマさんみたいでな」というような話をするんですね。僕は、写真でしか見てないけども、ほんとにその通りなんです。 ほんで、あるときに富里の奥で、ヒナを、白いダルマさんを見にかなり大きなサルが上がってきてちょっかいを出してるのを見たんですと。サルっていうのは、せんでもかまんことするんですな。上がっていって何するかって、食べようというわけやなく、ヒナのいる巣まで行って手でチョイチョイと叩いてみて、ワァってヒナが口を張るのを面白がるんや。一回でやめときゃいいのに、何回もやっているうちに親が帰ってきてとっかかってきたんですと。
クマタカの爪というのは長いんですよ。そいつにつかまれたら子イヌとかウサギなんかだったら神経麻痺するくらい猛烈なんです。そいつにサルはつつかれて、爪で殴られて、羽で叩かれて、ほんで一緒に木の下までまくれ(転げ)落ちて……。 落ちたらどうするかと思うたら、下でまたつかみ合いの喧嘩です。上におるときはまるっきり手の出んかったサルやけど、下りたら強なってきてタカの毛をむしるんです。タカのほうはというと、地面に降りたまま羽でサルを叩くんですな。長い間喧嘩して、血と羽とでいっぱいになって、サルの毛もいっぱいむしられとったと言うて、太一ちゃんはあとからまた下りて見にいったらしい。 そのときのクマタカはね、羽を広げたら「2メートル近うあった」と言うてました。そして、「そのころまでやな、大きなタカのおったのは」とも言ってました。