コノハズクが真昼になくなんて

 

面白い話はほかにもいっぱいある。僕らが大塔山の保全運動で走り回ってたら、その当時はマスコミも応援してくれてね、新聞とかテレビとかにしょっちゅう出たんですよ。そのなかでね、NHK和歌山に非常に外回りの熱心なプロデューサーがおったんです。ぜひとも大塔のことをテレビで放送したいというんで、「おお、やってくれ。いくらでも協力するわ」と言うたんです。そしたらとりあえず、一本集中して大塔の鳥をやりたいというんです。「ほいじゃ来いよ。どこへ行きたい?」と聞いたら、「そうやなあ、あんまり道のない山を走り回るのは大変やし、カメラを持ってこんなんし、集音マイクも持ってこんなんし、いろいろあるからね。行きやすいとこにしよら。でもあんまり易しいところに行ったらシャクやしね」と言ってました。

 

「行きやすいところいうたら、法師山がええやないか」と提案したんです。ちっとも易しいことないけど。富里の奥から入っていって法師山の北尾根を登るんですね。で、地図でここをこう登るんやと説明したら、「おお、ここええ!距離短い」。いったい何を言うかね。

 

で、元気なスタッフをいっぱい連れてきたんですよ。6人ぐらいやったかね。で、太一ちゃんのところへ行って「おいやん来てよ」言うたら、「わし、神経痛でよう行かんね」と言うんです。  その当時、神経痛やとかだいぶいろいろ言うてました。ほいで面白いのが、「かいね周り(家の周辺)の山しかよう行かん」と言うんで、「ほうか、法師山へ行こうと思てんけど」と返したら、「あっ、法師やったら簡単や」と言うんです。  あの人、かなり以前から腰曲がってましたな。ショボショボとした感じで、声も大きな声で喋らんしね。その格好を見たら、カメラマンなんか「やあ、荷物持ちますよ」と言うて、太一ちゃんの弁当からみんな持ってあげて登り始めたんですよ。

 

初めは植林の中を登っていくんやけど、じきにやせ尾根に着くんです。尾根はだんだんと険しくなるんです。で、登り始めて汗が出てくるころから、手を使わなあかんほどきつくなってくるんです。横向きに行くんでも、横っちょに手をつきながら、急斜面のところをこう行きながら尾根を上っていくんです。最後は尾根を這って登らなあかん。それを二つほど越したとこまでは若手も元気だってんけど、突然、スピードが落ちてヒイヒイ言いだしてね。そしたら、太一ちゃんが「おい兄さんよ、そのカメラ持ったろか」ですわ。

 

法師山のほとんど頂上に近いところの木守(こもり)側に、非常に深い谷があるわけです。法師山のちょっと来た尾根で、北の谷間からものすごくようけ(たくさん)鳥の声が聞こえてきて、まるで鳥の楽園と言いたいほどです。「ここ、ええなあ!ここは風の音も入らんし、ここでやるか」ということで、まずは弁当食ったんです。まったくの快晴やし、風は少ないしで、「こがなええ日ないなあ」と言うてマイクをセットして、鳥の声を入れ始めたんです。

 

入れてしばらくしたら、コノハズクの鳴き声が聞こえ出して、それがまた大きく鳴くんやてよ。「よお、鳴いてるなあ」ってこちら側で話してたら、「この山ではしょっちゅう鳴くで」と太一ちゃんが言うたわけです。その一言が悪かったみたいで、それを放映したら「NHKはやらせをやりすぎや」という文句を言いさがされて(言われまくって)しまった。夜に鳴くはずのものが真昼の録音の中に入ってるんやからやけど、でもそれは当たり前で、大塔ではしょっちゅう昼間に鳴いとるんです。もう今はないけど、真昼の放送のときに夜の鳥を入れるというのはやらせやというて、和歌山局はだいぶよそから叩かれたんです。

 

ずっとあとのことですけどもね、太一ちゃんがすっかりお爺さんになってしまってからのことです。玉井先生とか、かなり若手の熱心な人を連れて大塔の山の中でいろいろ調査してるときに太一ちゃんに来てもろたんです。

 

あれは冬だったです。雪がちらほら残っているような山の中をね、もちろん黒蔵谷のことやから原生林と違うけども、その当時まで70~80年ぐらいは人が入っていない山です。そこへ入って、いろいろカモシカのことを調べたんです。なんせ、ゾロゾロとおじやんの後ろについていくわけです。そして、川っぺりを歩いていたら、突然「玉井さんよお、ここへサンショウウオが卵産むんやで」と言うんですよ。「その石や」と言うんで、玉井先生が石めくったんやけど、なかった。

「まだないか? 今度雨降ったら産みこんだあるで」  で、1カ月ぐらいあとでしたかね、ちゃんとそこに卵があったですよ。いかにも不思議で、あとで「おじやん、あそこ知ってたんか」って聞いたんです。 「いやあ、わし、あの山、初めてや」 「ほいたら、なぜ分かるんな」 「いやあ、あそこへ来たら、サンショウウオ卵産みとなんね」  ほんとですよ。まあ、こんな話がいっぱいあるんで、僕が大げさに言っていると思うんだったらそのつもりで聞いてもろてもかまわんし、それに、面白いさかというてほかのところでこんな話をしたって通じません。「あいつはホラ吹いている。適当に、面白う吹いてる」と言われるだけです。