■いちいがしの会とは
第一回総会の挨拶が会設立の趣旨です。
拡大造林により豊かだった熊野の自然は失われそれによりさまざまな問題が起こっており「木の国」の林業を中心とする木の文化が大きく損なわれてしまっています。私たちは、このような現状にストップをかけ、かつての自然を取り戻して豊かな暮らしの一助にと1997年末、熊野の自然研究を極めた一人、後藤伸の提唱により会を結成しました。
「~熊野の森ネットワーク~ いちいがしの会」
イチイガシ(ブナ科)は、西南日本に広がっていた照葉樹林の代表的な樹木です。熊野の森には、たくさんの常緑カシ類がありますが、そのうち「イチイガシ」をシンボルとして、本会の名称としました。イチイガシは古来よく利用された樹木で、現在では神社の森などにわずかに残っているにすぎません。
■活動内容
「いちいがしの会」は、熊野の森の再生を目指して生まれました。自然の姿を把握しそれを踏まえて以下のような取り組みをしていきます。
第一に
林業には不適な場所に植林された山はもとの自然林に戻す事が必要だと考えます。 天空三分(尾根沿い)、植林された谷沿い、急斜面を自然林に戻すことは自然災害から山を守るためにも自然を守るためにも急がれることです。
後藤伸(いちいがしの会初代会長)は植林された山を自然林に戻す方法として「巻き枯らし」を提唱しました。
立木の樹皮をぐるっと剥ぐことによって立木を枯れさせる方法です。昔から山仕事の一つの方法として使われてきたものです。 この「巻き枯らし」を熊野の森の再生に使おうと提唱しました。
木は水と炭酸ガスとから日光のエネルギーにより有機物を作って成長します。水、炭酸ガス、日光のどのひとつが不足しても木は生長することはできません。一面に植林された場所ではスギ・ヒノキに日光を独占されてしまっているためそのままでは他の木は種があっても成長する事は出来ません。そこで「巻き枯らし」をすることにより立木を枯れさせて日光を林内に入れ、広葉樹を生長させようとするものです。
「日光を林内に入れるためならばスギやヒノキをチェーンソーで伐採するのも結果的に同じではないですか?」
という問いに対して後藤伸は、次のように言っています。
「木を伐採すると巻き枯らしと結果的に同じではないかと思われますが、大きな違いがあります。「チェンソーで木を伐採すると一挙に大きな空間が開きそこから光と風が急激に入り込む。そうすると乾燥の苦手な土壌生物は、死んでしまう。一方、巻き枯らしは葉、枝、幹が順番に時間をかけて枯れてゆき、それ応じて入り込む日差しがゆるやかに増え、山の急激な乾燥が防げるので、土をつくる土壌生物を守ることが出来る」
森づくりにはふかふかの黒い土を作られることが大切である。ふかふかの黒い土は土壌生物が生活することによって作られます。この黒い土は降った雨を土中にしみこませ、土、岩の裂け目に水を保ちます。 スギ、ヒノキの植林地の土中の土壌生物は自然林の土の土中に比べて、大幅に少なくなっています。土壌生物がいなければ倒れた木はそのままの姿で残ってしまい土にはなりません。
巻き枯らしの作業は注意しなければならない事があります。それは実施の仕方によっては危険を伴うことです。伴う危険は2種類あります。
一つは巻き枯らしにより立ち枯れした木は徐々に腐り、上方から折れていきます。倒れやすくなるので、巻き枯らしをした山には、状態が落ち着くまでは危険なので中に立ち入れなくなります。道路の近くは巻きからしは避けるべきです。
もう一つの危険は斜面の崩落が起こりやすいことです 崩落を起こさないために多くの木を枯らしてはいけません。そして場所にもよりますが、例えば20パーセントの木を枯らす場合一様に実施したならば残された木がすぐに生長して樹冠が詰まってしまって日光が下まで届かないないため広葉樹などは生えてきません。
それを防ぐために 日光を入れる場所を群狀に作りそこを巻き枯らしの作業を行いあとは残して全体として20パーセントとする方法など、巻き枯らしを行なう場所を選択する必要があります。 どの木を巻枯らしするかの選択は山によります。専門的な判断が必要です。
当会が行なう巻き枯らしは不適地の植林地に広葉樹をはやし、森に戻していくものです。林業をするためのものとは考えていません。
しかし獣害が考えられる山(現状ではほとんどの山)では食害を防ぐため獣害を防ぐ柵が必要です。柵の設置は巻き枯らしに伴う危険を避けるため落ち着くまでは立ち入り禁止とするためにも必要です。
第二に
伐採された山の自然を再生する方法です
伐採された山の状態によって取るべき方法が違って来ます
まず熊野は雨が多く木が育つ条件に恵まれているので表土の流出のない山では自然に森が再生する。そういった山であると見極められた所では、森が再生するのを待っておればよいわけです。
次に、自然に森が再生できる山でないとわかった場合では、いちいがしの会では「ドングリの直埋め」を中心に森の再生を行います。
従来行われてきた植樹については扱いを検討中です
☆ドングリの直埋め
木を育てるにはドングリを山へ埋める方法があります。5~10cmの深さに直接埋めて発芽させ、そのまま育てます。
これは、より自然に近い方法であり、根が深くはいり山を強くします。
作業で山の表土を傷つけることも最小限ですみます。重い苗を山に担ぎ上げるようなしんどい作業をしなくて済む上に作業が簡単で子どもにでも可能な方法です。
森作りにおける最も大切なことは「土作り」と「根のネットワーク作り」です。
根のネットワークは実生からでないとできません
☆獸害対策
拡大造林以前にはなくて、いま大きな問題となっているのが獣害です。
獣害対策の方法はこれからも研究が必要だと考えています。
第三に
原生林(和歌山県にはもう殆ど残っていない)や二次林(伐採したあと植樹をしないでそのままにしておいた結果、自然林に戻った山)はそのまま残し、貴重な自然として維持する。
原生林や二次林についても獣害が増えてきており獣柵が必要な場合もある